第173章 情炎② ※
私の声は届かずに、彼は背を向けたまま、歩き出した。
――――怒っているのか、あなたに身も心も捧げたはずの私が、こうしてリヴァイさんの腕に戻ったことを。
私は間違ったの?
あなたが遺した私への愛情を――――読み違えてしまったの?
……もう夢の中であっても、あなたが優しく笑ってくれることは二度とないの?
『……いやだ、いや……行かないで………。――――背を、向けないで………。嫌いに、ならないで………。』
がくんと、クローバーの花畑の中で膝をついた。
ぼろぼろと涙が零れる。
ごめんなさい、ごめんなさい。
愛してるの。
いつまでも愛してることに変わりはない。
――――でも、同じように愛したリヴァイさんが、その手を伸ばして私を捕まえてくれたから。
一緒になら、この先の残酷な世界も生きて行けると思うから………私は都合よく、リヴァイさんの腕に還った。
小さくなっていくエルヴィンの背中を呆然と見つめながら涙を零していると、エルヴィンの足が止まって―――――、ゆっくりと彼は、振り返ってくれた。
『――――ナナ。俺は君たちの幸せを心から願ってる。だから―――――………。』
ゾクリとするような、仄暗さを纏った笑みを私に向けて、最後の一文を確かにエルヴィンは口にした。でもそれは突発的にその白いクローバーの花を舞い上げて吹いた風に攫われて、聞き取れなかった。
――――と同時に、とくん、とくん、と私が安らぐ、安心する、鼓動が聞こえる。
やがてそのクローバーの丘は閉じられた。
遠くで、私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
「――――ナナ。俺がいる。」
その声の齎してくれる絶対的安心感と、鼓動と体温に誘われるように――――――
私は安らかで甘い眠りに落ちていった。