第173章 情炎② ※
翌朝、目を開けると窓辺から光が薄く差しこんで、腕の中のナナの髪が光を纏ってきらきらと輝いていた。
あまりに美しくて、その髪に指を通してみる。
子猫のように柔らかくふわふわで、いい匂いがする。
――――太陽のような、温かい匂いだ。
「――――ん………やだ………。」
「ナナ?起きてんのか?」
「……いやだ、いや……行かないで………。」
―――――夢か。だがどう見ても幸せな夢ではなさそうだ。首を小さく振りながら、ナナが頭を預けている俺の腕に小さく滴が落ちた感触がした。
――――泣いてるのか。
「………エル、ヴィン………。」
「――――ナナ。俺がいる。」
小さく身体を震わせるナナをまた強く抱き寄せて、いつかナナがねだった“とんとん”をしてみる。細い背中をとん、とんと一定のリズムで小さく打つ。するとナナの身体の震えが徐々に収まり、俺の胸にすり寄って安心したように、安らかな寝息を立て始めた。
もしかしたら夢の中で、エルヴィンに会えたのかもしれない。
エルヴィンにすり寄って眠っているつもりなのかもしれない。
俺が泣いたらその涙をお前が掬うと言ったように、俺もお前の涙を掬うために側にいる。
―――だがお前がエルヴィンの名を呼んでいたことは、黙っておく。あくまで俺の腕の中で、俺を感じながら安らかに眠っていたと言ってやろう。
そうして少しずつ、エルヴィンとの想い出から俺に、引き戻してやる。