第171章 感応
――――それは、こんなにも怯えさせて、泣かせて……犯して……傷付けることか?
――――違うということは分かる。
だがどうしたらいい?
どうやったらナナの想いも、俺自身の想いも、尊重して愛せる……?
優しく………エルヴィンがナナにそうしたように………、エルヴィンの、ように………
「――――………代わりでいい。」
ナナに覆いかぶさったまま、だがナナの顔は見られないまま、俯いて………小さく言葉を吐いた。
「――――え……?」
ナナがぴく、と反応して、背けていた顔をゆっくりと、俺の方に向けた気がした。
「――――エルヴィンの代わりでいい。俺を呼ばなくても――――あいつだと思っていい。」
いつだったか、アリシアと……ペトラが……俺に言った言葉だ。
『代わりでいい』
それに最高にイラついた。
それなのに今俺はナナに同じことを言っている。
……とんだ間抜けな男だな。
だが――――言ってみてわかった。
アリシアは、ペトラは……どれほど勇気を出して、どれほど惨めな思いを抑え込んで言ったのか。
そして、――――どれほど強く俺を想ってくれていたのか。
ナナの首元の傷に、涙の跡に目をやると――――……息が詰まるようだ。
俺が俺のまま想いをぶつけると、ナナをまた傷付ける。
それにお前がまだエルヴィンの死を受け入れきれていないのも……知ってる。
――――だから今はまだ、代わりでいい。
お前を泣かせずに……傷付けずに、この腕に捕まえられるのなら………。
どんな顔をしてる?ナナは……
呆れたか、怪訝な顔をしてるのか………
俺は恐る恐る、目線をゆっくりとナナの顔に戻した。
ナナはとても驚いた顔で大きく目を見開いたあと、苦しそうに目を細めて――――………
なにかに想いを馳せるようにそっと目を閉じた。