第170章 不遣雨
「――――鍵はかけとけ。物騒だろ。」
「――――っ……あ………!」
ふいに耳元で囁かれたその艶のある低い声と、耳にかかる温かい息に全身が痺れるように反応した。
背後から抱すくめられて、彼が手を伸ばしてガチャリ、とその金属音を鳴らして鍵をかける。
体温と匂いと声と、この金属音に私の身体は条件反射のように素直に反応して、――――無意識に甘い嬌声の一端を発していた。
「――――それに――――……。お前を逃がさないためにも有効だ。」
「!!!」
想定外すぎた。
――――こんな急に、こんなに迫られるなんて思っていなくて。頭の中に警告音が鳴り響いたみたいだった。
簡単に体を返されて、両手首をだん、と扉に張り付けられる。
真正面に至近距離で見上げるリヴァイさんの表情は、さっき私が見ていた冷静な彼とは程遠く――――……とんでもなく色欲を纏っていて、身の毛がよだった。
「――――なぁナナ、まるで運命だと思っただろう?」
「な……に、を……っ……!」
「――――お前を初めて抱いたあの日に使った――――……エルヴィンを出し抜くための嘘が、まさかこのタイミングで、この状況で、現実になるなんて。」
「―――――そんな、こと………!」
「―――――俺は思った。運命だと。――――俺の想いを貫けということだと、受け取る。」
「……エルヴィンはっ……知ってましたよ、嘘、だって……!」
「だろうな。」
「!!」