第170章 不遣雨
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待って、どうして……こんな、ことに……。
リヴァイさんに腕を掴まれて、足早に部屋に向かうその足になんとかついて行く。
――――思い起こされるのは、あの地下街の娼館街の宿でめちゃくちゃに抱かれた日のこと。あの時もこんな風に、部屋の鍵を握り締めて、どこか性急に……リヴァイさんに手を引かれ、部屋に囲われて――――………。
だけど決定的に違うのは、私はエルヴィンのもので、私はこの状況に納得していなくて、部屋に入ることを間違いなく怖いと思っている、というところだ。
でも、リヴァイさんが言った。
『状況が状況だ。理解しろ。』そうだ、何も同じ部屋に入ったからと言って、リヴァイさんは無理矢理……そういうことをする人では、ない………。
あの娼館街の宿の時とは、リヴァイさん自身の冷静さも違って見える。――――今よく観察してみても、理性の箍が外れているようには見えない。
私が怯えてたじろげばそれだけ、煽ってしまうだけになる気が、する………。落ちつこう、ただ毅然と、私はベッドじゃないどこかで眠ればいいだけの話だ。
そう色々と頭の中をなんとか整理して落ち着かせている間に、“305”と表示された扉の前に来た。リヴァイさんが鍵を差しこんでガチャリ、と金属音がして――――……扉が開かれる。
奥に続く部屋を見ると、一番奥には大きな窓があって、その手前に当たり前のように1つのベッド。
壁に寄せられたテーブルと、椅子。シンプルなスタンドに備え付けられたランプ。
「――――広くはねぇが、清潔そうだ。それに……狭くても一晩寝るくらいなら問題ねぇだろ。」
リヴァイさんはすぐに歩を進めて壁側の椅子に持っていた荷物をどさ、と置いた。
「あ?何やってんだ。入って扉を閉めろ。」
「………はい………。」
確かにいつまでも入り口に突っ立ってるわけにもいかない。
部屋に入って、扉を閉めた。
――――内側から鍵をかけることに、躊躇した。
だって、かけてしまえば――――……いざという時、逃げられない。