第170章 不遣雨
「――――大雨………橋……決壊…………。試されてるとしか、思えない………。」
ナナが何やら一点を見つめて、ただならぬ様子で何かを呟いた。
「――――……いっそ勲章授与式までずっと王都にいる手もあるな。」
「………いえ、ダメですよ……。今大変なのに……ハンジさんの側に、いたいです……。それに……兵士長と私がいつまでもいないと、また……良くない噂になっても、困りますし……。」
今日帰着して……4日後には調査兵団の功労を称えるための勲章の授与式のために王都招集されている。
元々ナナは、授与式の後に診察を受けて帰るからわざわざ行かなくていいと言ったんだが、俺がそれを却下した。
ナナの様子で病状が良くないことは分かっていたし、更に1週間近く先延ばしにすることを赦さなかった。
――――一刻も早く兵舎に戻って、兵士長と兵士に戻らなきゃ、という顔をしてる。
――――わかるんだよ、お前のことは何でも。
「―――旦那!目途が立ったんで、上流の橋を目指しますね。着くとしたら日暮れ前かな。そこにアントヴォルってぇ街がある。今日はそこで宿がとれるといいんだが。」
「ああ、そうしよう。」
そうしてまた馬車は、走り出した。
目指した通りの橋を渡った先の街、アントヴォルに着いたのは、日没前。
雨も上がって、澄んだ空気の中で街全体を朱に染めながら、山あいに沈んでいく大きな夕日を、ナナと肩を並べて見ていた。
「――――宿を探す。行くぞ。」
「はい………。」
想像していたよりも大きな街だった。宿も数軒はありそうだが、この雨で大勢がこの街に流れて来ている。
早く押さえた方がいいな。
「――――二部屋、空いてないか。」
宿屋のフロントに二部屋申し出た俺を見て、隣であからさまにナナがホッとした顔をした。
「ああお客様運がいい。最後の二部屋でした。どうぞこちらをお使いください。」
「助かる。」
フロントから鍵を二つ受け取る。
ナナの横を通り過ぎて――――御者を呼ぶ。