第170章 不遣雨
「――――どれだけナナちゃんを大事にしてるか、兵士長が1人で買い物に来られた時でさえ分かったけれど、今日でそれも安心と確信に変わった。」
「確信……?」
「ナナちゃんから片時も目を離さないんだもの。紅茶を見ている時も、会計をしている時も。それに見て?」
ふふ、と笑っておばさんが小さく指したのは、リヴァイさんの背中。
気付かなかった。
左肩が大きく、濡れている。
「……………!」
「――――あなたはまるで雨なんて降ってないみたいに、全然濡れてないのに。――――傘をさしてくれたのは、彼でしょう?」
「――――………。」
リヴァイさんは、雨に濡れる事を嫌うのに。
だっていつも、小雨であっても鬱陶しそうに空を睨んで、舌打ちをしている。
「――――前に来られた時も、あなたが好きなお菓子を少し伝えただけで、全部買ってっちゃうくらいだったから……どれだけ愛されているのかと思っていたけど………うふふ、想像以上でもう、胸が苦しいほどだわ。」
待って、それに………あの日の大量のお菓子は、おばさんのおすすめによるものじゃなくって………リヴァイさんが、私を想って………買ってくれたもの、だったの……?
リヴァイさんの背中を見つめると、リヴァイさんが振り返る。
いつものように粗暴に、顎先で『来い』と示す。
また私を守るために……嫌いな雨に半身を濡らして、隣を歩いてくれるつもりなの。
「――――ほら、行って!幸せにね。」
おばさんに背中を押された。
でもその言葉が辛い。
――――幸せになんてなっちゃいけないの。
ずっと喪に服す。エルヴィンを想い続けて……
それが私の、深すぎるエルヴィンの愛に応える唯一できることだから………。
それなのに、涙で視界が滲んで、決意も揺らぐ。
「――――空も、泣いてる………。」
この雨が降り続いて、もっと、私の中に湧き出るこのどうしようもない思いも、けじめをつけられないもやもやも全て、洗い流して。
リヴァイさんの隣に立って、そう祈るように黒い雲が立ち込める空を見上げた。
――――本当に本当に……神様というのは意地悪で。
こんな私の願いは、まるで違う方向に叶えられることになってしまった。