第170章 不遣雨
おばさんはなにやら気を利かせてか、お店の奥に下がってしまった。
もともと広いお店ではなくて、私の私室よりまだもう少し狭いくらいのスペースに、所狭しと瓶に入った茶葉が並んでいる。
リヴァイさんに何を話す気にもなれなくて、説明書きを読みながら瓶を手に取り、あれこれ見ていても、いつものようにワクワクドキドキした気持ちにはなれない。
リヴァイさんがどこにいて、なにに意識を向けているのかを全身で感じようと……警戒しようとしているようで、体中の意識がそっちに向いてしまって、いくら説明書きを読んでみても、全く頭に入って来なかった。
「――――ナナ。」
「……っ、はい……。」
「――――選んでくれ、俺が好みそうなものを。」
「自分で選べばどうですか……!」
さっきのあれを、私は怒っているとアピールするために背を向けて、顔も見ないまま冷たくあしらうと、いつものリヴァイ兵士長が良く使う、冷たい怖さのある声が飛んできた。
「――――ほう、口答えか?」
「!!」
「――――選べと、言っている。」
「私じゃなく……お店の人に聞けばいいでしょう……?!」
「空気を読め。 “お前が” 俺に選ぶことに意味があると言っている。」
「私はあなたの――――……。」
――――ものではないのに。
さっきのことに対して、怒ってる。
近付けない。
また捕まってしまうことが怖いんです。
そう、言いかけて口を噤んだ。
こんなところで言い合うべきことでもないし、さっさと選んで終わらせてしまおうと、俯きながらきゅ、と唇を噛んだ。
「――――先日買われたのは、きっと……ブランデーに合う、ものだったから……。」
「ああ。」
「ウイスキーと、合わせるなら……。」