第170章 不遣雨
――――雨の日は、ずきずきと頭の奥が痛む。
それは昔からよく、あった。
けれど……今日のこの頭も胸も、心臓も……すべてが痛くて疼くのは、またその目が……私を言いなりにしてしまう、強すぎる引力を放つ彼の目が私を捕らえているから。
そして抱すくめられて私の鼻先が埋まった彼の首筋からは、いつもの香とは違う、自分と同じ石鹸の香りのはずがなぜか甘くて、痺れるような色気を纏って鼻腔をくすぐる。
過呼吸でもないのに何度か唇を重ねられて、酸素の供給を断たれるほどに食らいつかれて、私の心拍数は異常に早い。
顔も体も熱を持って、まるで――――……なにかの病にとりつかれたみたいだ。
――――あの時、定期診察に同行すると言われた時に私がきっぱりと断っておけば、こんなことにはならなかったんだと……今更後悔しても遅い。
「――――紅茶、選ぶ……んじゃ、ないん、ですか……。」
息も切れ切れに本来の外出の目的を思い出させると、リヴァイさんはチッと軽く舌打ちをして、歩き出した。
――――まるで逃がさないというように、私の手をしっかり握って。
雨に濡れないよう、体を引き寄せて。
カランカラン、という小さな銅製の鐘を鳴らしてそのお店の扉は開いた。
「いらっしゃ……あら!!ナナちゃん!!」
「こ、こんにちは……。」
「久しぶりね、会いたかったわ!新しい茶葉もあるのよ、ゆっくりしていってね!」
おばさんは相変わらず穏やかで優しい笑みを向けてくれる。
そしてリヴァイさんに目を向けてから、ほんの少し驚いた顔をしてから、私とリヴァイさんを交互に見つめて、とても嬉しそうに頬を染めて笑った。
「――――リヴァイ兵士長!!また来てくださるなんて!」
「ああ、この前は世話になった。」
「どうぞゆっくりしてってくださいね!」
「そうする。」