第169章 涙雨
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「――――あら。ナナ、リヴァイさん。」
緑あふれる小さな診療所の奥から、ナナの母親が顔を出した。相変わらずそっくりだな。
「お母様、ただいま。」
「――――元気そうで何よりだ。」
「ええ、お蔭さまで。調査兵団はさそかし大変だったと………。」
「――――ああ……。」
ナナの母親は俯いたナナをチラリと見て、頭を撫でた。
「――――紅茶でも飲んで行って。」
「――――うん………。」
それからナナは病気の進行や、ボルツマンに依頼した薬の分析の話を簡単に母親に話した。
母親にすら全ては話さず、かいつまんで心配ないと思わせるような話の仕方をする。それを横からどうこう口を出すつもりはねぇが――――ナナが人を頼らないガキだったのは、こういうところも噛んでんだろうと思うとまた――――……抱きよせたくなる衝動に駆られる。
「――――そう言えばナナ、ロイから何か……薬を受け取ってる?」
「―――――……うん………。」
「――――そう……定期的に受け取ってるものよね?」
母親の追及に、ナナは表情を暗く陰らせて俯いた。
「処方目的とその薬について、私に話せる?ナナ。」
その言葉に目を開いて、何かを決意しているようにナナは唇をきゅ、と噛んでから答えた。
「――――ううん、これは……私がロイと話す。私がロイに頼んだ……巻き込んだ、ことだから……。」
「――――分かった……。でもそのロイがね、行方がわからないの。」
「――――え……?」