第169章 涙雨
翌朝、雷は止んだものの、まだ降り続く雨の中、とてもスッキリとはしない目覚めの中なんとか身体を引きずって、会話のない朝食をリヴァイさんと済ませた。
「――――ハル。世話になった。」
「いえ、大したおもてなしもできませんで。」
リヴァイさんは礼儀正しくハルに挨拶をしてから、馬車に乗り込んだ。
「じゃあ、今日はもうこのままトロスト区に帰るから……また次の定期診察の時に来るね。ありがとうハル。」
ハルは私の思わしくない顔色を見て色々と察したのだろう。心配そうに私の目を覗き込んで、その胸にぎゅ、っと私を抱いた。
耳元で小さく囁かれたそれは、私をまた、悩ませる。
「――――エルヴィン様は何よりもお嬢様の幸せを願っていらっしゃいます。――――あなたが選ぶ道を、あなたが選ぶ幸せを誰も責めたりしない。だから………目を、心を閉ざさず、ちゃんと見て考え、選びなさい。」
「――――うん………。」
煮え切らない私の顔をまた心配そうにのぞき込んで、頬をすり、と撫でてから私の背を少し押して、リヴァイさんの待つ馬車へと促した。
扉を閉めて馬車は走り出した。
「――――お嬢さん、どこまで?」
御者が私に行先を尋ねる。
「……あ、ごめんなさい。オーウェンズ病院まで。」
「はいよ。」
馬車は走り出した。
リヴァイさんは腕を組んで窓から見える雨に濡れる王都を眺めたまま、何を思っているだろう。