第169章 涙雨
ナナは困惑したまま目を泳がせて、この場を終わりにするという選択をした。
「――――嬉しいですが、もう……子供じゃないので、雷が鳴ってても一人で眠れます……!もう、怖い夢も、見ないし……っ……!そう、私は大丈夫だから、安心してリヴァイさんもよく眠ってくださ―――――……」
言葉を並べながら足早に俺の横を通り過ぎようとするその腕を、掴んだ。
「――――そう思うなら、俺を眠らせたいなら……、一晩中側にいろよ。」
腕を掴んで引き留めたわずかな反動でナナの髪がふわりと浮いた。
大きく見開かれた濃紺の瞳が、揺れる。
その腕を引き寄せて、俺の腕の中に閉じ込めて唇を奪って――――……その衝動を遮ったのは、コンコンと鳴る、扉をノックする音だった。
「――――リヴァイ様?失礼致します。」
俺がナナの腕を放すと、扉を開けてハルが入って来た。
「紅茶のお代わりはいかがですか?」
「――――いや、ちょうど寝ようと思ったところだ。下げてくれるか。」
「承知致しました。」
「………じゃあな、ナナ。」
俺が一言告げて目線を残して去ろうとすると、またナナは目を大きく開いて……さっきよりも僅かに泣き出しそうに悲しそうに眉を下げて、瞳を潤ませていた。