第169章 涙雨
「そうだリヴァイさん、明日なのですが。」
ナナが僅かに明るい表情で、話題を変えた。
「ああ。」
「9時頃にはここを出ようかと。母の病院と、ロイの研究所に少しだけ寄らせて頂きたく……。」
「ああ、それは構わない。」
「その後に茶葉のお店に行きましょう!お昼前には王都を出れば……夜、割と早く兵舎に戻れますね。」
「ああ。」
「――――………では私は、これで……部屋に戻って寝ますね。」
これ以上同じ空間にいてはいけないと思っているようだった。不自然に会話を終了させ、ナナは立ち上がった。
「やけに早いな。」
俺の言葉にナナはぎくっとしたような顔をするかと思って観察していたが……小さく笑顔を貼りつけて、ふふ、と笑った。
「――――早くても、遅くても怒るんですね。」
「怒ってねぇだろ。」
「じゃあ拗ねてるんだ。」
「…………。」
「黙るのはもう肯定ですよ、そんなに私と一緒にいたいですか?」
ふふん、とわざとらしく鼻を鳴らすように言う。
――――こうやってお互いに少しずつ茶化しながら本音を包み隠すやりとりを………決して踏み込まず、でもただの兵士と兵士長じゃない距離を探しながら、俺達は続けて来たよな、何年も。
「――――………。」
「――――リヴァイさん……?」
黙る俺に、ナナが僅かに動揺する。
――――もう終わりだ、そんな煩わしくもどかしい関係は。
「そうだ。お前といたい。」
「……………!」
ナナの表情は驚きと………戸惑いと………僅かな怯え。
その目が物語っている。
『やめて』
『それ以上言わないで』
わかってる。
だが、手を伸ばさずに後悔はしない。