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【進撃の巨人】片翼のきみと

第169章 涙雨




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二人掛けのゆったりとしたソファに腰かけながら、一番好きな紅茶を飲むこの時間は悪くないな……と窓の外を見ると、雨足が徐々に、強くなっていた。

強くなる雨音の中、ぎい、という重厚な広間の扉が、遠慮がちに少しだけ開いた。



そこにはいつもと全く違った服装の……どこからどう見てもハルが守り育ててきた “お嬢様” なんだとわかるナナがいて、なぜか自分の家なのに……目を合わさないまま俺に小さく会釈をしてから広間に足を踏み入れた。

何というのかは分からねぇが……見るからに “女” が着るような……引きずりそうなほど長い裾のワンピースは、無駄にキラキラ、ふわふわとしていて……あぁそうだな、いつかも思ったことがある。





「――――蝶みてぇだな。」



「………え?」





俺が呟いたその言葉は雨音にかき消されて、どうやら聞こえなかったらしい。





「………なんでもない。―――突っ立ってないで、座ったらどうだ。」



「はい……。」





ナナは僅かに気まずそうに、まだ俺と目を合わせないまま、一人掛けのソファに座った。



今でこそトロスト区の調査兵団支部の部屋は狭いが――――ウォール・ローゼ区内の元の兵舎の俺の執務室には、一人掛けのソファと、二人掛けのソファが向かい合わせに置いてあった。

ナナはその心情によって、どこに座るのか変わるんだ。

前のめりに俺の目の奥をその大きな瞳で覗き込みながら、迷いなく俺の隣に……二人掛けのソファの空席を埋めるようにそこに座る時と……目を合わせず、心の距離を保ちたいとでも言うように、向かいの一人掛けのソファに座る時。



頬杖をつきながら向かいに座ったナナを見つめると、一瞬視線に気付いたのか、チラリと俺を見上げて――――、慌てたようにまた、目線を落とした。



気まずい沈黙が流れて少ししてから、こんこんと扉が鳴った。



助かった、とでも言うようにナナはパッと顔を上げて、扉の方へとパタパタと急いだ。



ハルから渡された紅茶を持ってまた、少し気まずそうな顔で俺の向かいの席に戻る。



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