第169章 涙雨
「――――ロイも怖がってるかもしれない。ねぇ、ロイはまだ?」
「――――………それが………。」
「どうしたの?」
「最近時折、帰って来られないことも、あって……。」
「――――え………。」
ハルが心配そうに目を伏せる。
――――でも待って、悪い事ばかりに考えがちだけど、そうじゃないかもしれない。私はそう思い直すように両手をぎゅっと握り締めて、ハルに明るく伝える。
「友達とか、彼女とかができたのかもしれないよ?」
「………まぁ!それなら、確かに喜ばしい事ですわ。」
ハルは目から鱗が落ちたような驚いた顔を見せたあと、口元に手をあててふふ、と笑った。
「確かに――――……ここ最近は、エミリーさんの事を時々、話してくれるようになっていましたからね。」
「そうなの?」
エミリーの気持ちが届いたのか。
だとしたら、とてもとても嬉しい。
真っすぐで純真で強いあの子は、きっとロイの事を支えて一緒に成長して行ってくれる女の子だと、思うから。
「今日ロイが帰らなかったら、明日研究所とお母様のところに寄ってみるね。」
「――――何かご用事が?」
「――――うん……大切な用事が……あるの。」
「そうですか……。あぁ、リヴァイ様が今広間で紅茶を飲まれていますよ。一緒にいかがですか?」
「あ…うん、じゃあ……もらおうかな……。」
「広間でお待ちください。お持ちしますね。」
少しだけ緊張するけど、避けるのもおかしいから……でも、広間の扉を開けるその手に力を込めるのに、若干の勇気を要した。