第168章 緒
――――待て、俺も……そうじゃねぇのか?
ワーナーがいつ俺に……俺がナナを欲しいという想いを抑え込んで、綺麗に守れと、言った……?
あのじじぃは、一度でも言ったか?
俺がナナを欲するのに相応しくないと……触れるなと……。
いや、言うわけがない。
あいつは―――――、俺を大切に想っていた。
俺を、愛していた。
ナナの幸せと共に、俺の幸せも……願ってた。
“エイルを守り、育て、導け。エイルは、お前の生きる意味・希望になる。最愛の存在になるだろう。”
そう遺した……、それを、欲とは切り離した綺麗なものでなければいけないと、どこかですり替えたのは俺だ。
俺があいつを欲してはならないなんて、一言も言っちゃいない。
「ナナに偉そうに言えたもんじゃ、ねぇな………。」
ずっとナナが望むことを叶えてきた。
あいつがエルヴィンを望んだから……その腕に還るように、そうしてきた。
――――だがもうそのエルヴィンはいない。
なら俺も……もう遠慮はしない。
俺が我慢することを、誰も望んじゃいない。
――――我儘に生きていいのなら。
もう一度この腕にナナを取り戻す。
傷付けてしまうとしても、ぶつかり合うとしても、また修復して、何度でもやり直しながら共に生きていく。
――――まぁこれも、俺の都合のいい解釈なのかもしれねぇが。
「――――なぁエルヴィン……ナナは、返してもらうぞ。そこから、悔しがって見てろよ……。」
考えすぎて熱を持った頭を冷やすように頭から水をかぶって、風呂を出る。
いつもよりも思考が晴れて、少し腹を括れた。
悪くない心地だ。