第168章 緒
それを知っていてなお、ナナに触れる度に湧き上がる欲に抗えない自分に嫌気が差す。
都合のいい言葉が、頭の中に浮かぶんだ。
“なにもエルヴィンが特別で、ナナと生きるに相応しいというわけじゃない。お前もあいつも、同じだ。だから欲していい。ナナを、心のままに。”
俺の中にいる意地汚く狡い奴の妄言を、いつかのミケの言葉が肯定し輪をかける。
『欲しいなら手を伸ばして――――その手を掴んだらいい。ナナを欲しいなら、欲しいと言え』
『いつ死ぬかわからない日々だ。――――あの時手を伸ばしていれば――――、重ねたその手を離さずにいたら―――――、無理矢理にでも抱き締めていたら――――。なんて後悔はして欲しくない』
エイルを俺に託したじじぃは……ワーナーは……守り導けと言った。ミケのそれと、相反するものに聞こえる。
「――――どいつもこいつも好き勝手、言いやがる……。」
そもそもワーナーはどんな想いで俺にあの言葉を遺した?それも今となっては……わからない。
受け取る側が好きに解釈できてしまう。
だからナナは……ワーナーの言葉を重責のように取り替えて、重責を果たすために死ぬならワーナーも許してくれるだろうと……エルヴィンを追って夢のために死ぬというおかしな答えを出した。
「―――――………。」