第168章 緒
検査着に着替えて、採血をして、ボルツマンさんの診察を受ける。
「――――以前と似た様子だな。大きな進行はない、が悪化してないわけじゃない。」
「…………。」
「――――体重の減りも気になるな。食事はとれてるのか?」
「はい、とれて――――……。」
「ねぇだろ、嘘をつくな。」
間髪を入れずに、横に座っていたリヴァイさんが腕を組んだまま冷たく言った。
「………最近、ちょっと、食べて、る………もん……。」
「てめぇの最近は随分直近のみを指すんだな?昨日と今日か?」
「う………。」
怖い人が二人になった、と口を尖らせて俯く。
ちょっと思っていたんだけど、この二人は圧のかけ方とか口調が……似てる。
ボルツマンさんがはぁ、とため息をつきながら呆れて言った。
「君が来てくれて良かったよリヴァイ兵士長。まったくもってナナは危機感が足りなすぎる。」
「激しく同意する。」
「―――ナナ。心配をかけたくないのは理解できる。だが医者のお前らしくない。正しく物事を見なければ、正しい治療法など見えてこない。」
「………ごめん、なさい………。」
「――――『生きてろ』って俺に言わせといて、おかしな話だな。」
「………はい………。」
2人にじとっと睨まれて、なんとかその窮地を抜け出したくて、違う話題を探した。そんな中、ボルツマンさんが首元をとんとん、と指した。
「――――その包帯はどうした?」
「――――それは……。」
「これは大丈夫。ちょっと打って痣になっているだけです。」
リヴァイさんが言いかけた言葉に被せるように、なんでもないことだと言い切る。リヴァイさんは少し目を伏せた。
ボルツマンさんに心配をかけるほどのことでもないし……、私のこの傷をつけたことを一番後悔しているリヴァイさんにこれ以上追い打ちをかけるようなことでもない。
――――私たちがエルヴィンを、仲間を失った悲しみと苦しみをお互いに相殺するのに必要だった、ただそれだけのことだから。
そして私はあの話を思い出した。
「―――あ、そうだ……。」
鞄の中からゴソゴソと、小さな紙袋を取り出す。