第168章 緒
――――夕方、王都についてすぐにボルツマンさんのところを訪れる。貴族御用達の病院らしい豪勢なロビーで待っていると、ボルツマンさんが来てくれる。
が、なんだろう物凄く……険しい顔をしている。
「お久しぶりです、ボルツマンさ………。」
「お久しぶりです、じゃないだろう……!お前は定期診察の意味をわかっていないらしいな?」
――――怒ってる。
無理もない、結構な期間、ここに来なかったから………。こんな歳にもなって叱られてしまったことが恥ずかしくて、リヴァイさんに助け舟を出して欲しくて、チラッと目線を向けてみる。
リヴァイさんは腕を組んだまま、私にちらりと目線を向けてため息交じりに言った。
「――――同意だな。庇う余地もない。」
「………ご、ごめんなさい……。」
大事な2人から畳みかけられてしまって、しゅんと肩をすくめていると、ボルツマンさんがリヴァイさんを見て驚いた顔をした。
「――――君は、もしかして……調査兵団の……。」
「リヴァイ・アッカーマンだ。ナナが世話になっている。」
やけに大人な対応でリヴァイさんはボルツマンさんに手を差し出し、2人は固く握手を交わした。
「ああ、やはり……。エルヴィン団長のことは聞いたよ。実に……残念だ。……それにしても……壁の英雄である調査兵団の兵士長がわざわざ、ナナに付き添って……?」
ボルツマンさんが少し合点がいかない、という表情で私とリヴァイさんを交互に見た。
なんて、言ったらいいんだろう……。
あわあわと目を泳がせていると、リヴァイさんはふっと息を吐いて、実にそれらしくその場を収めてくれた。
「―――こいつは正しく病状を俺達に報告しない傾向がある。今新任団長が就任したばかりで、団長補佐のこいつが倒れれば兵団は大きな損害になる。病状を正しく把握するために、上官として俺が来た。」
なんだろう、うまく庇ってくれたんだけれども、ちょっと耳が痛い……。
「そうか。―――ナナにはお互い手を焼くな。さて、こっちへ来い。すぐ診よう。」
「……はい。」