第168章 緒
そういうと私の手からリンゴをとって、がぶりとそのまま食いついた。
驚いたけど、いつものごとくとっても美味しそうに食べるから嬉しくて、ベッドの脇の椅子に腰かけてサシャが嬉しそうにリンゴを食べる姿を見ていた。
「――――無事に帰って来てくれて、嬉しい……。」
口をついて出た私の言葉に、サシャはもぐもぐと咀嚼しながらも少し頬を赤らめて俯いた。そして何かに気付いたように、ハッとした顔でゆっくり私の方を見た。
「――――ナナさん、エルヴィン団長……のこと………。」
「うんもちろん、知ってる。ちゃんと弔ったよ。」
「――――あんなに、幸せそう、だったのに……。大丈夫ですか……。」
珍しくサシャが暗い顔で俯き、上目遣いで恐る恐る私の方を見た。
「――――もう生きていけないって、思った。」
「……………。」
「でもね、みんながいてくれるから………。生きていくんだって、今は思える。――――だからサシャ、帰って来てくれて、ありがとう。」
「――――………さすが悪女……。」
「えっ。」
「……人の心を鷲掴む術を心得えちょる……かしくぃわ………。」
「……最後の一言の意味はわかんなかったけど、あんまり褒めてないよね?今の。」
私がチラリとサシャを見て言うと、彼女は少し嬉しそうに、少し恥ずかしそうに笑った。
その笑顔が可愛くて、私も思わず笑ってしまう。
「………ふふっ。」
「あはは!!」
それからまた色んな話をした。
目の前で沢山の仲間が死んで、少なからずサシャも心が乱れているかもしれないと思ったけれど……どうやら心配なさそうだ。
強い子だな。
そして私は明日王都に発つための準備をするために、日が傾く頃に、兵舎に戻った。