第168章 緒
そして午後、ハンジ団長はサシャを見舞うことを快く了承くださり、私は同じトロスト区の西側にある病院に向かった。
途中の市場で、リンゴを買って。
こんこん、と扉をノックすると、中から返事があった。
「ふぁい?」
――――なにか食べてる。
あぁ、心配いらなそうだ、と笑みが零れる。
「サシャ?私、ナナです。入ってもいい?」
「ナナさん?!どうぞ!」
扉をあけると、ベッドに横たわったまま、案の定パンをかじっているサシャが喜々とした顔でこちらを向いた。
「元気そうでよかった。」
「はい!もう明後日には兵舎に帰る話になってます!」
「そうなの。嬉しい。」
「ところでそれは食べ物ですか?」
サシャが目線を私の抱える紙袋に移して、目を輝かせている。
「………めざといね。」
あまりにサシャらしくて、笑ってしまう。紙袋からリンゴを取り出して見せると、サシャはじゅるりと涎を吸うような音を立てた。
「リンゴ、好き?」
「好きです!!」
「待って、剥いてあげる。」
「いえ、このままで!」
「えっ。」