第166章 躊躇
ふと本棚の一冊の本が目に留まった。
どこかで見たことがある……、ああそうだ。あの時に――――……エルヴィン団長が読んでいた本だ。
ロイと対面して……民間人を犠牲にするウォール・マリア奪還作戦の話を聞いて……混沌とした胸中をどうにもできずにいた王都での夜、ホテルの私の部屋に……“部屋のランプが点かなくて”と嘘をついて、エルヴィンは確かに、この本を持って来ていた。
私はすぐに眠ってしまったけど、なんの本だったんだろう。
背表紙を見る限り、団長の仕事に関わるようなものではなさそうだ。哲学的な……内容かな。
本の淵が所々めくれていて、古いものなのだとわかる。もしかしたら、お父様から受け継いだ大切なものかもしれない。――――いつかマリアさんに、アランさんのものじゃないか聞いてみよう。
でも……それまでに一度、読んでみてもいいかな……?
知りたい。
エルヴィンの頭の中に入っているものが、どんなものなのか。そう思って、その赤茶色のカバーのついた少し古びた本を、胸に抱いた。
「――――ねぇエルヴィン……あの時は………ちゃんと本を、読めてたの?」
あの日あなたが私の部屋に……心に……一歩踏み込んで来たのは、この本を読むためじゃない。
私の心の苦しくもがいている部分に、手を差し伸べるためだった。
――――でも全ての答えを与えるわけじゃなくて。
導き、ヒントを与えながらも……答えを出すところは私に委ねる。
あぁそうだ、私の愛しい人は2人共、こういうところは似てる。
なんて愛情深くて………どれほど私の可能性を信じてくれているのか。