第166章 躊躇
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ヒストリア女王の真っすぐな意志に、兵団の皆は一部の覗いてほぼ、理解を示した。
――――一部で、ただ兵団に担ぎ上げられただけでなんの王の器もないとヒストリア女王のことを良く思わない者もいる。かと思えば、兵団上層部の一部には、自分の意志をちゃんと話すヒストリア女王を煙たがる者もいる。
こういった場で女王の発言の後の表情を見ていれば、分かる。舌打ちでもしそうな顔でヒストリア女王から視線を逸らす者……私は横目でちらりと目をやった。
――――隣にエルヴィン団長がいたら、小さくたしなめられていただろう。
私にはあの過酷な運命の中、自分を律しながら投げやりになることもなく、その時その時の最善を尽くして考える彼女を尊敬している。
私よりも数倍過酷で、泣く場所だってなくて……誰に縋っていいかわからない立場で……彼女は本当に強くたくましく、立派な女王だ。
会議が終わって、上層部が部屋を出るその時……、ザックレー総統が丸縁の眼鏡の奥から私を見ていた。
呼ばれている、と感じて慌てて駆け寄ると、珍しく憂いを含んで眉を下げたザックレー総統が、口を開いた。
「――――ナナ。」
「……っ、ザックレー総統……、なにか、ございましたか……?」
ザックレー総統の目が私の首筋と指の包帯にちらっと目をやってから、小さく話し出した。
「――――辛いのか。」
「………っ……は、い………。とても………。」
いいえ、大丈夫だと……答えるべきなのかもしれない。組織のトップにわざわざ心配をかけることもないだろう。
でも、言えなかった………辛くないなんて、とても……。
目を伏せた私の肩に、皺だらけで筋張った手がぽん、と置かれた。
「――――またチェスでもしに来い。あいつのいやらしい攻め方に憤慨した昔話でもしてやろう。」
「………お心遣い、心より……感謝……致します………。」
俯いて、少し震わせた肩をまたぽんぽん、と叩いて、総統は去った。