第166章 躊躇
それから議題は移り変わり……この事実を、この島の現状、世界の現状を……民に公表すべきかどうか、という話になった。
憲兵団を中心に、『公にすべきでない』という意見もある。
民の混乱を招く………実権の中枢である俺達にだって今後のことをまだ考えきれていないのに、今民の混乱を招くようなことは避けたいと。
それもわからなくはない。
――――だが、それを一喝したのは――――……駐屯兵団のピクシス司令だった。
「ならばまた民を騙すか?」
「―――――………。」
「それは………。」
「レイス王がやったように何も知らない民をこの壁の中で飼おうというのか?ならば……我々は何の大義があって、レイス王から王冠を奪ったのだ?」
また会議室が……一滴の波紋も赦さないような……水面のように静まり返った。
その一言はあまりに正論であまりに重い。
そうだ、兵団が実権を握るために少なからず血が流れた。
そんな俺達が、前王と同じことを繰り返していては――――……何にも、ならないじゃないか。
「公表しましょう。」
静まり返った水面に、透き通った迷いのない声で、一石を投じたのは―――――ヒストリアだった。
「100年前レイス王が民から奪った記憶を、100年後の民にお返しするだけです。我々は皆運命を共にする壁の民。これからは一つに団結して、力を合わせなくてはなりません。」