第166章 躊躇
――――そうだ、ミカサを守ることに必死で、目の前の巨人に無謀にも素手で殴りかかった……あの時。
あの時だけは、全てが繋がった気がした。今までにもただあの一瞬だけ。………どうして……。
俺は記憶の中にそのヒントを探すように、一つ一つ思い出した。巨人の手に俺の拳が触れた瞬間、電気が走ったように“道”のようなものが繋がった。
――――その巨人の手の先にいたのは、見覚えのある顔………
『私は、ダイナ・フリッツと申します。王家の……血を引く者です。』
『――――あれは……お前だったんだな……!―――ダイナ………!』
「―――ッまさか?!!?!」
俺はそれが繋がった瞬間に、大声を張り上げて立ち上がっていた。
「……びっくりした。どうしたの突然?」
「……エレン、大丈夫……?」
俺のあまりの反応に、戦々恐々とした雰囲気で会議室が静まり返った。その中でハンジ団長がまた俺を振り返り、ナナが……心配そうに俺を見上げる。
「あ………あの……、今………。」
言うべきか?俺が接触したのが、元王家の血を引くダイナ・フリッツだった巨人であり……王家の血を引く巨人と接触したから……その力の一端が使えたんじゃないかと……。
でも……それはあくまで可能性にすぎない。こんなことを言ってしまって………『なら、王家の血を引く者を巨人化させて試せば良い』と結論付いたら……ヒストリアは……どうなる………?
「続けたまえ。我らの巨人よ。」
ザックレー総統が静かにこの先の俺の言葉を待つ。
現在ヒストリアに大きな実権はほぼない。
ほとんどがこのザックレー総統の意志で動かされる。この人はヒストリアを巨人にすることなど微塵も躊躇わずやるだろう。それだけは避けたい………。これ以上、ヒストリアに無理を強いたくはない。
「……なんでもありません………お騒がせしました………。」
小さく謝罪をして、俺は着席した。
「あ?」
リヴァイ兵長が不機嫌そうに俺を睨む。
―――だとしても言わない方が得策だ。ミカサにも……言ってない。母さんとハンネスさんを食ったあの巨人が、まさか俺の父さんの前妻だったかもしれないなんて……そんなこと……。