第166章 躊躇
「――――それを阻止するべく、進撃の巨人の元の継承者であるエレン・クルーガーから意志と共に進撃の巨人を継いだグリシャ・イェーガー氏はその使命を果たし、“始祖の巨人”は壁の王から進撃の巨人と共に息子エレンに託されました。……そして、クルーガー氏がわからなかった“不戦の契り”が何なのか、今の私たちにはわかります。」
ハンジ団長の言葉に、ヒストリアが僅かに目を細めた。
――――彼女が慕っていた、元始祖の巨人を宿していたフリーダ・レイスのことを思い出しているんだろう。
“不戦の契り”に苛まれた彼女の姿を、ヒストリアは幼い頃に見ていたのかもしれない。
「始祖の巨人がその真価を発揮する条件は王家の血を引く者がその力を宿すこと。しかし王家の血を引く者が始祖の巨人を宿しても、145代目の王の思想に捕われ、残される選択は自死の道のみとなる。おそらくこれが“不戦の契り”。」
この話を聞いた会議室全体が、思い沈黙に支配される。
――――俺達に成す術はないのか……そんな空気だ。
その中でそれを代弁したのは、ザックレー総統だ。
「我々にもし……その強大な敵の侵攻を退ける術があるのだとしたら、始祖の巨人の真価を発揮させ……壁の巨人を発動すること以外に手段は残されておらんだろう。だが……不戦の契りがある限りそれは叶わないと……。」
「――――しかしながら。」
ハンジ団長が、一列後ろの席に座る俺の方を振り返る。
「過去にエレンは無垢の巨人を操り、窮地を逃れたことがあります。なぜあの時だけそんなことができたのか……未だわかりませんが、王家の血を引く者ではないエレンにも、始祖の巨人の力を使える可能性があるかもしれません。」