第166章 躊躇
「――――この3冊の本の存在を知る者は現在この部屋にいる者のみである。それぞれ“グリシャ・イェーガー氏の半生”、“巨人と知りうる歴史の全て”、“壁外世界の情報”であった。これは彼ら調査兵団13名と、ここにはいない199名の戦果だ。幾千年先まで語り継がれるべき彼らの勇姿を讃える式典は後日執り行わせていただく。」
ザックレー総統の進行で、今日の会議の主旨が話される。
「本日は女王の午前で今一度我々の状況を整理し、この会議の場で意志の共有を図りたい。――――調査兵団団長ハンジ・ゾエ。この状況をどう見る?」
ザックレー総統の問に、ハンジ団長は立ち上がって意見を述べる。
「我々調査兵団はエルヴィン・スミスを含め多数の英雄を失うことと引き換えに、ウォール・マリアを奪還し“超大型巨人”を仕留めその力を奪うことに成功しました。ですが……我々“壁内人類”は、きわめて危険な状態にあることに変わりはありません。」
初めて巨人を見た時……こんな絶望があるのかと思うほど、その存在の脅威に震えた。それが今や……可愛く思えるほど、真実はもっともっと過酷で、残酷だった。
ハンジ団長が淡々と、その事実を述べる様子を……私は隣の席から見守っていた。
「敵が巨人という化け物だけであればどんなによかったことでしょうか。しかし……我々が相手にしていた正体は……人であり、文明であり……言うなれば―――――世界です。」
人は自分と違うものを忌み嫌う。
自分の理解が及ばないものを恐れ、忌避する。
また――――……憎しみは語り継がれる。
その内に……真実もそうでないものも、色んなものを纏ってやがて増幅して……まるで自分の実体験のように意識下に憎悪が刷り込まれていく。
「手記によれば我々は“エルディア”国の中でも巨人になれる特殊な人種“ユミルの民”。そのユミルの民は世界を支配していた過去があり、再び支配する可能性がある。だから世界は我々ユミルの民をこの世から根絶するのだと。」