第166章 躊躇
会議室の入り口でそんな感傷に浸っていると、視線を……感じた。なんとなく心地よくないその視線の方を見ると………そこにはフロックさんの姿が。
それはそうだ。
彼も調査兵団の一員なのだから。
フロックさんは何かを言おうとしたのか、私に反応して歩み寄ろうと足を動かした。私は進んで話したいとも思わず、小さく顔を背けた。
するとその顔を背けた先にいたのは、既に着席しているバリスさんと……アーチさん。
他のみんなは……とまた出入り口の方を振り返ると、そこにはまた背が伸びたであろうジャンが立っていた。
「――――ナナさん。」
「ジャン。」
フロックさんと話さなくて済む……近寄らなくて済む、と若干だけれど、ホッとした。ジャンもまた左腕を骨折していて、痛々しく三角巾でその腕を吊っている。
「――――腕、どう?」
「おかげさまで……痛みは随分マシっす。でも、訓練に戻るにはまだ相当かかるかな。」
「そうだね。今は無茶せず、回復に専念して。」
「――――それは、ナナさんもです。」
「………ふふ、耳が痛い……。」
ジャンは私がエルヴィンの火葬の日に取り乱した姿を見て、心配してくれているのだろう。でも私が少しだけ笑って見せると、どこか安心したような笑みを向けてくれた。
そして窓側にはピクシス司令やナイル師団長の姿もあった。お2人それぞれに目が合ったタイミングで深く礼をする。――――彼らにも情けない姿を見せてしまったから。
今日は……今日こそは気丈に振る舞わなければ。
――――そうこうしていると、リヴァイ兵士長とハンジ団長がエレンとミカサ、アルミンを連れてやって来た。
重体のサッシュ分隊長とサシャ以外の調査兵団が揃ったところで、廊下から複数人の足音が聞こえた。
みんなの背筋が一気にピン、と伸びる。
―――――女王陛下。
ヒストリア女王のお越しだ。
議長の役割として女王陛下が中央に。
その御前には、調査兵団が持ち帰った3冊のグリシャ・イェーガーが残した手記が納められている。議論の進行はその隣のザックレー総統。そして女王の反対隣には書記が内容を書き記していた。
緊張感漂う会議が、始まった。