第166章 躊躇
兵団トップとヒストリア女王に、正式に今回のウォール・マリア奪還にて得た情報をまとめて報告する。
その会議にはもちろん当事者であるエレンとミカサも出席するため、残り10日の懲罰が残っているものの釈放されることになった。
それはつまり兵規違反などで罰している余裕もないほど、迅速に情報の共有と意志決定、来たる敵の襲来に備えなければならないということだ。
トロスト区の調査兵団支部の大会議室に足を踏み入れると、その高い天井から吊るされた4つの兵団のエンブレムを標したタペストリーが目に入った。
とても小さなことだけれど……当たり前のように中央に配されるのは兵団そのもののエンブレム。
そしてこれまでは……王を守る憲兵団の一角獣がその横に配されていた。
それが今は……兵団の象徴ともとれるような位置づけで、以前の一角獣の位置に自由の翼が配されている。
――――エルヴィンが……今まで散っていった仲間が……積み上げて来たものが無駄じゃなかったと……、この壁の世界を生きる私たちにとっての希望の象徴にまでなりえたのだと――――……そう思うことで、少しでも多大なる犠牲を生んだことへのこの胸の惨痛を……和らげたかった。
用意された調査兵団の兵士が座る椅子の数があまりにも少なくてやりきれない。
――――そして、探してしまう。
無意識に……凛と背筋を伸ばして最前列に座る、その大きな背中に背負われた自由の翼と、輝く金髪を。
「――――………。」
無意識にエルヴィンの影を探している自分に気付いて、ぎゅ、と拳を握って――――……雑念を振り払うように、顔を小さく横に振った。