第165章 明暗
夕方、研究所の窓から差し込む西日を遮るようにカーテンを閉めようと席を立つと、窓の向こうにエミリーが戻って来たのが見えた。
ほんのちょっと、ふっ、と息を吐いた自分がいた。
少ししてから扉が開く音がして、僕はいつものようにエミリーの明るく通る声で発せられる『ただいま』を期待したのだけれど、その声はなぜが少し……暗くて静かだった。
「………ただいま………。」
「おかえり。」
「……………。」
エミリーは僕に目を合わせないまま、僕の机を避けるようなルートでいつも自分の荷物を置いている部屋の隅に行って………僕に背を向けたまま、なにやら顔を俯かせている。
……エミリーの背中を目で追うついでに部屋のあちこちに目が行く。
……そうだ、そういえば……エミリーが来てから研究が捗るなと思った。それは……どこもかしこも綺麗に整理整頓されて、掃除されて……この研究所が、いつでも快適に保たれているからだ。
彼女の手によって。
悔しいけど、それは認めよう。
だからまぁ、なにをそんなに落ち込んでるのかは知っておきたいわけで。
……だって具合が悪いとかで、明日から来ないなんてことになったら……僕は困るから。
「……どうしたの?何かあった?」
「………ううん………。」
「………ふーん………。」
僕が腕を組んで首を傾げつつエミリーを見ると、僕の方を見たエミリーは一瞬びく、と怯えたような表情を見せた。
――――その小動物みたいな怯える姿が、イライラする。
言えよ、言いたいことがあるなら。
そんな苛立ちを含めてエミリーを観察していると、エミリーは何か葛藤しているように一点を見つめて、眉を下げて目を開いたまま……何かを考え込んで、かと思えば目をギュッと瞑って首を小さく左右に振った。