第165章 明暗
――――――――――――――――――――
今日はいい朝だな。
――――なんて、朝日の眩しい空を見上げて思うようになったのはここ数年のことだ。
それまで僕にとっては太陽の光が射しこむ、その “清々しい” と感じる感性すら必要ないものだったから。毎日毎日勉強に明け暮れて、代わる代わる来る仮面を被ったみたいな家庭教師と部屋にこもる日々だったから。
だからまぁ、この研究所は悪くない。
兵団の監視下ってのはちょっと気に食わないけどね。
……あと………毎朝僕の好きな花……姉さんの瞳と同じ色の花を生けた花瓶の水を変えるその後ろ姿にも、もう慣れた。
最初は物凄く……イライラしたけど。
「おはよう!ロイくん。」
僕の視線に気付いて振り返ったエミリーは、未だに照れたように少しはにかんで笑う。
「……おはよ。」
「――――新聞、見た……?」
「――――……うん。」
今朝の新聞に大々的に、
“ウォール・マリア奪還成功 調査兵団凱旋”
と書かれていた。
けれどその見出しの次段には……エルヴィン・スミス団長の死が――――……報じられていた。
「――――ナナさん、大丈夫かな……。」
「………チビが側にいるだろ。」
「――――……ああ、リヴァイ兵士長…?」
エミリーは口元に手を当てて、ふふっと笑った。
そう言えば調査兵団も帰還したことだし、おそらくそろそろ姉さんも定期診療に来るはずだ。悪化、してないといいけど……。
姉さんの事をあれこれ思っていると、エミリーが今日の予定を尋ねて来た。
「今日は研究所内のみの予定かな……?おつかいはある?」
「―――ある。ひとつ頼みたい。今日オーウェンズ病院にメルコ製薬が来る日だから、そこでこれ、買って来て。」
僕は薬のリストをエミリーに手渡した。
「うん、わかった!」
エミリーは慌てて花瓶を置いて、ものすごく大切そうに、そして……なぜか嬉しそうに両手でその紙を受け取る。
……なにがそんなに嬉しいんだか。
オーウェンズ病院もそんなに近いわけじゃないし、面倒だなって思うだろ普通。
「…………よろしく。母さんにはその紙、見せたりしなくていいから。直接販売の人に見せてもらってきてよ。いい?」
「??うん!」