第165章 明暗
「あ、あのねロイくん………。」
「………なに?」
エミリーは腹の前でぎゅっと両手に力を入れて握り締め、微かに震えながら勇気を振り絞っているような様子で、口を開いた。
「――――私、前にね……、自分の叶えたいもののために………自分を見失って……手段を選ばない、良くない行動をしてしまって……とても、後悔したの………。」
「……………。」
「――――大好きな人のためだって、そう……都合よく自分を欺いて、本当は―――――……全部自分のためだった………。後から冷静になれば、わかったの。私のこの行動で、私の好きな人は本当に喜ぶのかなって……幸せになれるのかなって………。――――そう考えたら、やっぱり違った――――………。」
一生懸命に何かを伝えようとしている。
けれど、イラつく。
とても、とてもイラつく。
「なに?なにが言いたいの?」
「っ……あ、あの……つまりね……!」
エミリーはずっと伏せたまま、一度も合わせなかった目を……僕に向けた。自分を奮い立たせるように身体ごと僕に真っすぐに向けて。
「もし、もしロイくんが本当にナナさんの事を想ってるなら――――………っ……、ちゃんと、話をするべきじゃ、ないのかな……?!」
「――――………。」
「話さないと分からないよ……!ナナさんがどうしていきたいのか、ロイくんはどうして欲しいのか……!ロイくんは………“姉さんのため”と思っているのかもしれない、けど……っ……、それは……っ、独りよがりにすぎないんじゃない……?!」
「――――………。」
「後悔しないで欲しいから……っ……、ロイくんがナナさんのこと、どれだけ大事に想ってるか……知ってる、から……っ……!」
エミリーの目に涙が浮かぶ。
――――何をそんなに熱くなってんの?
関係ないじゃん、お前に。
これは僕たち姉弟の問題だ。
その涙も偽善か?僕を心配してるって??そんなわけない。
だって何の見返りもなく、僕を心配して何の得がある?
それに……僕の事がまだ好きなら……僕に嫌われるかもしれない、そんな生意気な口をきいてなんの得がある?
――――僕は最高に、イライラしていた。