第165章 明暗
小さく言葉を発したのは、そのリヴァイ兵士長だった。
「――――エレンは父親の “進撃の巨人” と父親がフリーダ・レイスから奪った “始祖の巨人” の二つを宿している、まさに大陸のマーレとやらからしてみれば、喉から手が出るほどの存在ってわけか。」
「……それを奪いに来た…… “獣の巨人” 、 “鎧の巨人” 、 “超大型巨人” 、 “女型の巨人” ……あぁそれに変なのがいたよね、四足歩行の………。」
「四足歩行……?そんな巨人もいたのですか……。」
「そう。これで7つ……あとはジャック……いや、ユミルの巨人、あともう一つは……謎のままだけどマーレが保有していることになる。……エレンがマーレに奪われれば、始祖の巨人の力で無垢の巨人たちをマーレは意のままに操ることができ……このパラディ島に攻め入ることも造作もない。埋蔵されている燃料目当てに瞬く間に攻め込んでくるだろう。そして我々は……この壁内人類というくくりでなく、大陸にいるユミルの民もろとも……それこそ“悪魔”の根絶を達するように根絶やしにされるのか………それとも、マーレが他国と戦争するときの兵器にするべく飼われるのか…………まぁ、楽観して考えたとしても、終わり、ということだね。」
「――――………。」
―――――なんて言ったらいいの。
なぜエレンばかりが、そんな辛い宿命を背負わなければならないのだろう。一番に心に浮かび上がるのは、そんな悲しさだ。
ただの、普通の優しい少年なのに………その肩に、壁内人類の命どころか、エルディア人という民族全ての命を背負っている。この過酷すぎる宿命を、私は恨む。
それに――――………信じがたいほどの人間の残酷さと醜さ。同じ “人” でありながら、巨人化できる民族を忌み嫌い………人でないもののように扱い、ましてや兵器としての軍事転用なんて………どう考えても普通じゃない。
「………ったら…………のに………。」
あまりに想像を絶する理不尽さに、私は小さく呟いた。
「ナナ?」
「――――夢だったら、良かったのに………。」
「……………。」
「………ああ、まったくだね………。」
私たちは3人小さく俯いて、この現状をそれぞれに憂いた。