第164章 記憶
大事なその人が横たわるベッドの側に一歩寄って、ベッドの脇に膝をついた。
彼に目線を合わせてちゃんと伝える。
心からの言葉を、悲愴な表情じゃなく、嬉しい顔で、ちゃんと。
「―――おかえりなさい。サッシュさん。生きて帰ってくれて……ありがとうございます。」
「――――………。」
サッシュさんは驚いた顔で私を見て――――……ベッドの淵に置いてあったジャケットの胸ポケットから、預けていたリンファと揃いの髪飾りを取り出した。
「――――ほら。返す。」
「はい。」
私はそれを、大事に両手で受け取る。
まるでリンファがサッシュさんを守ってくれたみたいだと……そう思って、“ありがとう”と、髪飾りに頬を寄せた。
「――――では私は、これで。」
立ち上がって部屋を去ろうと歩を進めると、サッシュさんが私を悩んだ末に発した、という声で呼び止めた。
「――――ナナ……!」
「はい?」
振り返ると、サッシュさんは目を伏せてとても――――言い辛そうに、でも意を決した様子で口を開いた。
「――――お前がエルヴィン団長の恋人だったってことは、知ってるし……こんなに……っ……失意のどん底に叩き落されるくらい愛してたってのも、わかってる……!」
「―――――………。」
「――――でもな……、もちろん、今すぐにとは……っ……言わないし、無理でも……!あの人のところに、もう一度戻る選択肢も、考えて、欲しい……!」
―――――あの人。
言わなくてもわかる。
彼が尊敬してやまない――――……リヴァイ兵士長のことだ。
「――――それ、は……。」