第164章 記憶
こんこんと、軽快に小さくその人の私室の扉を叩いた。
サシャは別の病院に入院しているのだけど、サッシュ分隊長は幹部会議などもあり、兵舎にいた方がなにかと動きやすいという理由でここトロスト区の調査兵団支部兵舎にいる。
―――――とはいえ、むしろサシャより重傷だ。
どんな過酷な戦いをしたのだろうと、心配になるほど。
帰還した日に診察した時に、サッシュさんは私を気遣って色々と話そうとしてくれたのだけど、私はエルヴィンの死の衝撃でなにも考えることができなくて―――――……ないがしろな返事になってしまっていたから。
ちゃんと話したい。サッシュさんと。
「――――はい?」
部屋の中から返事が返ってきた。
「ナナです。入ってもいいですか?」
「――――ナナ?!入れよ!!」
まるで重傷者とは思えないほどの喜々とした元気な声に、思わずふっと笑ってしまう。あぁこういうところも……リンファが大好きだったサッシュさんの素敵なところだ。
「失礼します。」
決して広くはない部屋のベッドに、サッシュさんは横たわって――――――いると思ったのに、思いっきり起きていた。
しかも……机の上には、ビールとワインの空き瓶……。
「ちょっとは元気になった顔じゃねぇかナナ!!」
「――――………。」
「あ?どうした??」
「………サッシュさん……まさかとは思いますが……お酒、飲みましたか……?」
「―――――あっ………。」
サッシュさんが、やべっ、と言う顔で慌てて机の上の空き瓶を隠そうと、骨折のため固定されて首から吊られている腕を急に動かした。
「いって!!!!」
急に動かしたからだろう、顔を歪めて腕を押さえた。