第164章 記憶
――――父さんは、その昔大陸に残された側のエルディア人だった。
マーレに制圧され、悪魔の民族として大陸の収容区に家畜のように隔離・管理されていた。
――――俺は見た。
エルディア人とわかるように着用を義務付けられた腕章が、どんな模様をしているのか。
――――収容区のエルディア人に、自由など微塵もないことも。
まず見たのは――――手記で読んだ通りの、父さんの幼少の頃の夢。
幼い妹の手を引いて、空を飛ぶ……ヒコウセン、というものを見るために収容区をほんの少し、許可もなく抜け出したんだ。あっけなくそれはバレて………マーレの治安当局の男二人に捕まり……それは酷い暴行を受けた。
――――が……、本当に非道な話はここからだった。
父さんが妹の分の暴行も引き受けて耐えている間に妹は……無事にもう一人の治安当局の男が、家まで送り届けた。
――――――はずだった。
―――――翌日、妹は無残に体中を獣の牙で引き裂かれてズタズタになった状態で……川に浮いていた。
俺は見た。
父さんの妹フェイの……骨が見えそうなほどの惨く肉を裂かれた傷跡も、恐怖におののき果てた凄惨なその表情も。
まるでその場にいたように……はっきりと。
絶望した。
平気な顔で少女を殺し、平気で「知らない」と嘘を吐く治安当局のその小太りのじじぃにも。
その明らかな嘘をヘラヘラと笑いながら受け入れ、娘を殺されてなおへりくだり媚びる両親にも。
――――そんな無慈悲で狂った世界にも。
この時、父さんの内側に何かが芽生えた。
―――――おそらくそれは“絶望”や“憎悪”……それだけならまだ良かったのかもしれない。
そこに呼応する者達に出会ったのは、父さんが18歳の時だった。