第163章 相殺
「――――まさかね………。」
そう言えば私はこの薬の成分をちゃんと聞いていない。――――ロイを信じるって決めたから、あえて聞かなかった。
でももし―――――……
そう考えを巡らせていると、ガチャリと扉が開いて、急いだ様子でリヴァイさんが戻って来た。その手には、包帯と当て布。消毒液が握られていた。
「――――手当する。見せろ。」
「えっ、あ………。」
「――――前、開くぞ。」
「ちょ……っ、待っ………!」
抵抗する間もなく、リヴァイさんはシャツのボタンを上から外した。血の重さで襟がへたって、肌に貼りついている。
「――――着替えた方がいいな。」
「――――えっ………!」
残りのボタンも全て外されて、はらりとその肩からシャツを下ろされる。
「――――っ………。」
下着だけの姿。こんな、姿を………リヴァイさんには久しく見せて無くって………恥ずかしすぎて、顔に熱を持つ。
でもこれは手当で――――恥ずかしがる私がおかしいんだと、ぐ、と我慢して俯く。リヴァイさんは顔色ひとつ変えずに手際よく当て布に消毒液を染み込ませた。
「――――少ししみるぞ。」
「は、い…………、………んっ………。」
傷口を殺菌していることがわかるピリピリとした痛みに、一瞬吐息が漏れる。ふぅふぅと息を落ち着かせていると、リヴァイさんが小さく言葉を漏らした。
「――――悪かった………。」
「――――いえ?これくらい、大丈夫です。兵士、ですから。」
ふふ、と笑って見せる。
――――エルヴィンの幻肢痛による痛みを受け止めた時よりも、全然軽いものだと思い出すと――――……
また、涙が僅かに……込み上げる。
首筋と指先の手当を終えると、リヴァイさんはクローゼットから自分の真っ白なシャツを取り出して、私の肩にかけてくれた。
「――――貸してやる。着ろ。」
「は、はい…………。」
しゅるりとそのシャツに腕を通す様子を、リヴァイさんがなぜか―――――すごく見ていた。