第163章 相殺
『エルヴィンを最期まで信じて戦ってくれて、ありがとう。』
その言葉は――――……俺の内側の、棘に塗れて血を流すような、ずくずくと奥底で膿んで俺を蝕んでいくような何かを柔らかく、包むようだった。
「――――……っ………。」
俺はまたナナの目を見られなくて、両の頬を包むナナの手から逃げるように顔を少し逸らした。
ナナはふわりと俺の頭を抱いて、よしよしと―――――ガキをあやすように髪を撫でる。
――――今はだめだ、きっと声が……震えちまうから………。
頭の中でエルヴィンの最後の笑顔が蘇る。
――――なぁエルヴィン。
お前の女はいい女だな。
お前がずぶずぶにハマっちまって―――――……死んでも放したくないとまで思った理由がわかる。
――――もし赦されるのなら、こいつの腕の中で甘えて、お前を見殺した自分を正当化しても………いいか?
決して愚かな私欲なんかじゃなく……お前が信じ、ナナが憧れてくれた“兵士長”の俺の判断だったと信じても、いいのか………?
「―――――ナナ………。」
「はい………、リヴァイさん………。」
「―――――ただいま………。」
ナナは一瞬息を詰まらせて、ひく、と身体を引きつらせた。
俺を抱く華奢な腕に力を込めて――――
声涙を震わせながら言った。