第163章 相殺
「―――――やっと、リヴァイさんを………抱きしめられた………。」
「――――……っ……。」
「――――あなたが苦しいと、私は苦しい…………。あなたの様子がおかしいのは、私が…………大丈夫じゃ、ないんです…………。」
耳元で掠れるような、泣きそうな声でナナが言う。
「――――辛かったでしょう……?苦しかったでしょう……?エルヴィンを……大事な人の命を諦める選択が………リヴァイさんにとって、どれほど苦しいものかぐらい、私にだってわかる……。」
「――――違うだろ……、お前は……俺を――――責めるべきで……。」
「――――誰がっ……責める、んですか……っ……!!」
ナナは声を荒げて、俺の頬を両手で包んで引き寄せた。その顔は、涙でぐしゃぐしゃだ。
でも、その涙の浮かぶ大きな目に俺が映って――――……その自分が、驚くほど泣きそうに情けない顔をしていることに気付く。
そのどうしようも無い感情をぶつけたナナの首筋から流れ続ける血が、ナナの白いシャツの襟を赤く染めていく。
「――――泣いて、いいんです……っ……!」
「――――………。」
「ねぇリヴァイさん……、私ばっかり泣いて、ずっと受け止めさせて、ごめんなさい……。あなたが私の涙を拭ってくれたから――――……私は大丈夫。だから今度は、あなたの涙を私に掬わせて……。」
「――――………。」
「――――ただいまって、言って………?もう一度、ちゃんと………おかえりって、言います……。」
「――――………。」
「――――あなたが生きて帰ってくれて、私は――――嬉しい………。エルヴィンを最期まで――――……信じて、戦ってくれて――――……ありがとう……リヴァイさん………。」