第163章 相殺
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「――――…………。」
諦めたように抵抗をやめて受け入れるナナに付け込むように、更にギリ、と犬歯を首に突き立てる。
柔らかな白い肌に牙が食い込むその感触にすら興奮する、どうしようもないクソ野郎だ、俺は。
――――このままナナを抱けば俺は……こいつを、抱き殺してしまうんじゃねぇか………。
抵抗をやめたナナの両手を解放した。
――――逃げろ、俺から。
俺が正気を取り戻した今、この隙に。
俺はお前を―――――……壊してしまう。
最たる興奮で心臓が激しく収縮している。
息を整えながらナナを見下ろすと――――……白銀の髪と、涙に濡れる濃紺の瞳と、真っ白な肌から流れる鮮血。その非情にも美しいコントラストが、征服欲を満たしてくれる。
「――――ナナ……抵抗、しねぇのか………。」
ナナの瞳がゆっくりと、俺の方に向く。そして小さく口が、動いた。
「――――リヴァイ、さんが、そう……したいなら…………。」
「――――………。」
「――――殺しても、いいよ………。」
その言葉にゾクリとした自分に、呆然とする。
俺はもうとっくに――――……どうかしてるんだ。
――――あまりに多くの命が失われるところを見た。
命を奪ってきた。
お前の命さえ―――――その重さが分からなくなって………この手で、欲望に任せてお前を壊してしまう前に………逃げてくれ。
お前を愛してるから――――……逃げろ。
俺が側にいることを望むな。
離れろ、俺から。
ナナの方を見られないまま、俯いてナナが逃げ出すのを待つ。
――――しばらく沈黙が流れてから、ナナがゆっくりと上体を起こして―――――その白い両手を俺の方に伸ばしたと思ったその瞬間、その腕は俺の首に回され、きつく抱き締めると―――――、そのまま背中から俺を引き寄せたまま倒れ込んだ。