第163章 相殺
「………おね、がい……です……!リヴァイ、さ………待って………っ……!」
「待たない。」
無理矢理唇を奪う。
従順に受け入れないナナに輪をかけて俺は苛立っていた。閉じようとする唇をこじ開け、がり、とその唇を食むと―――――、血の、味がした。
「――――あ……っ………ぅ、ん――――――……。」
押さえつけた手首に、ナナは振りほどこうとしたのだろう、渾身の力を込めた。
だが俺に敵うはずがない。
―――――弱ぇな、どいつもこいつも。
だから死ぬんだ。簡単に。
――――たとえこうやって無理矢理手に入れても、お前もまた俺を置いていつか、死ぬんだろう?
――――俺は何をこんなに苛立ってる?
何かが爆発しそうに腹の中で渦巻いている。
時間をかけてやっとナナを優しく愛せるようになったと思ったのに………
結局俺は―――………
この世で一番大事な女をまたこうやって、傷付けている。
―――――この世で一番信じていた奴が愛した女を、こうやって傷付けている。
ナナの唇から、鮮血が次々に滲み出る。
ああそうか、出血しやすい、血が止まりにくい病だったな。
―――――こうやって血を流し続けたら、ナナは――――ナナも………死ぬのか。
その喉笛を噛み千切ったら………このまま俺の腕の中で死ぬのか。
―――――それも悪くねぇ。
あぁエルヴィン、お前の気持ちが今分かった。
この何より大事で何より放したくない存在を手に入れてしまったら―――――……
こいつに訪れる死すら、俺の手で。
俺の腕の中で。
……その命もろとも支配してしまいたくなる。
舌で舐めとったナナの血の味が、暴力的な支配欲と抑えられない情欲を湧き上がらせる。
その真っ白で細い首筋を―――――、獣が獲物を仕留めるように、息の根を止めるように、牙を突き立てて―――――強く噛んだ。
「――――っ………ひぅ…………っ!」
ナナの苦しそうな声が、小さく漏れた。
だが、それと相反して―――――抵抗するように力を込めていた手首が、俺に従うようにふっと脱力した。