第163章 相殺
「――――誘ってんのか?その顔と――――その声は。」
「っ………!」
ナナがぎゅっと目を瞑って、耐えるように顔を背けた。
――――誰の所有印もない白い首筋。
そこにフロックがキスしたのを見た。
――――腹立たしい。
人のものに手を出すクソガキも………、すぐに付け込ませるようなお前も。
――――頭が、割れるように痛む。
――――とてつもなく、イラつく。
――――地下街で生きていた頃に周りにひたすら牙を剥いてた、あの時のような――――……哀れで愚かな男が、調査兵団兵士長の人格の下から、どろどろと溢れるように出てきて――――……俺を蝕んでいく。
――――いや、蝕むんじゃない。
元々がこういう人間だ、俺は。
力でねじ伏せて支配する方法しか知らなかった。
―――――引き戻されていく。
――――調査兵団に出会う前の………、エルヴィンに出会う前の俺に。
「――――もう、俺を止めるものは何も無い。遠慮する必要もない。お前が俺にそうしたように……強欲に我儘に、俺は俺の欲しいものを手に入れる。」
俺の言葉に動揺するナナの腕を掴んで強引に抱き上げ、ベッドに乱暴に押し付ける。
「――――や……っ………!」
両手首を押さえて抵抗できないように張り付けると、ナナの目は涙で溢れて――――……怖いものでも見るような怯えた顔を見せた。
「――――リヴァ、イさ……。」
「――――癒せ、俺を。お前のその体すべてで………!」
耳に舌を這わせて、卑猥な水音を立ててナナの耳を犯しながら――――……いつもの抱擁だけで済ませる気はないと、その後の行為を覚悟しろと、興奮して荒くなった息遣いをわざと聞かせる。
ナナはぶる、と身震いしながら懇願するように小さく、乱れる呼吸の合間に抵抗の言葉を発した。