第162章 葬送
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エルヴィン団長を包む炎に向かって―――――、ナナさんが一心不乱に駆け出した。
まるでこの世界じゃないどこかを見ているみたいに。
――――愛しいその人の元へ急ぐみたいに。
誰よりも早く、ヒストリア女王の後ろに控えていたリヴァイ兵長がその様子に気付いたようだったけど、ナナさんからは遠くて、駆けつけるには無理があったのだろう。
いつものろまな僕が……気付けば体が勝手に動いていた。
ナナさんが炎に飛び込んでしまう寸前に、その体を何とか背中から抱き止めたけれど、ナナさんが懸命に伸ばした指先を炎が掠めて―――――、ジリ、と焼ける音がした。
「――――放して……っ……!」
「――――ダメ、ですっ……!ナナさん……っ……!」
「――――……なんで……?」
「指っ……火傷、してますっ……!」
「エルヴィンが―――――……いなく、なっちゃう………。止めないとっ……!」
力なく、でも僕の制止をなんとかかいくぐろうとする。
涙をぼろぼろ零しながら。
――――人類を救う調査兵団に、この救われた心臓を捧げる。
――――巨人の力を使いこなして、これからの戦いにきっと貢献する。
そんな覚悟はなんとか、できた。
―――――けど、どうやっても駄目なのは――――………ナナさんにとって、エルヴィン団長の代わりはいないってことだ。
これだけはどうやっても、僕には何もできない。
――――ただ、謝るしか……。
「――――ごめん……ごめんなさいナナさん―――――っ………!」
「――――っ………逝かないで………っ………。」
ナナさんの膝が折れて、かくん、とその場に座り込んだ。慌てて駆け寄ったエレンが、ナナさんの背中から両脇を抱えて炎から遠ざける。
僕も燃え盛る炎から距離をとってナナさん横に座り込み、頭を垂れて謝罪の言葉を告げた。