第162章 葬送
炎が揺れる。
私にはそれが地獄の業火に見えた。
――――私の愛しい人を飲み込んでいく。
苦しめないで、燃やしてしまわないで―――――……別れを告げたはずなのに、前を向くって、決めたのに……私は、また我を忘れて言葉を漏らした。
「―――――っ……や、めて……っ……!」
やめて。
焼かないで。
エルヴィンが痛がる。
熱いって……っ……苦しいって……っ……!
――――灰になってしまえば、もう触れられない。
――――二度と――――………
そう思った瞬間、私は燃え盛る炎に無意識に……駆け寄って手を伸ばしていた。
「―――――ッ……ナナ……!」
「――――おい………?!」
「っ――――何やってんだ?!」
その業火に焼かれたとしてもエルヴィンを引き止めたい、その一心で伸ばした手の指先を、ジリ、と業火が焼いた。
その刹那、私の身体は力の限り抱き止められていた。
「――――放して……っ……!」
「――――ダメ、ですっ……!ナナさん……っ……!」
誰かが背後から私を抱き止めた。
私の頬の側でエルヴィンよりも少し暗い、けれど似た輝きをもつ金髪が揺れた。