第162章 葬送
ああそうだ、おとぎ話と言えば……、眠り姫は――――……王子様のキスで目を覚ます。
私の王子様は、私のキスで目覚めてくれないのかな……なんてまたありえない妄想をしながら、体をぐっと起こして――――、エルヴィンの冷たい頬に手を添えて、指でその金髪をサラリと撫でる。
「―――――起きてよ、エルヴィン………。ねぇ、目を……覚まして………?」
棺の中に横たわる彼の冷たい唇に、そっと口付けた。
ぽた、と………エルヴィンの頬に落ちた涙を指で拭う。
それからまたしばらく彼の側で歌っていると、こつ、こつ、と足音が聞こえた。
「―――――ナナ……。」
「――――ハンジ……団長………。」
「はは………ハンジさん、でいいよ……。むしろナナには――――……そう、呼ばれたい。」
ハンジさんは痛々しい顔の包帯をさすりながら、私の方へ歩いて来た。急いで立ち上がろうとするけれど、ハンジさんがそれを手で制した。
ハンジさんは棺の中のエルヴィンを覗き込むと、ふ、と柔らかな表情を見せた。
「――――花が、似合わないなぁ………。」
ハンジさんの泣きそうな一言に、私はハンジさんの背中にぴと、と寄り添った。
「――――本当にもう……目を、開けないんだね。エルヴィンは………。」
「――――はい………。」
「ナナを散々夢中にさせといてさ……?自分なしじゃいられなくしておいてさ……?自分が奪い取ったくせに……本当、あなたは――――……最期まで自分勝手だよ。」
「――――………。」
「――――エルヴィンが死んだ時の、ことは………。」
ハンジさんが、とても言い辛そうに言葉を選びながら言った。
「聞き、ました……。リヴァイさんから……。」
「そうか………。」