第161章 劣情
―――――――――――――――――――
ナナは俺に来なくて良いと言ったが―――――……いつまた過呼吸になるか、病でぶっ倒れるかわかったもんじゃねぇ。
――――放っておけるはずがなく、少し間を置いてからナナを追った。
あいつが1人で別れを告げるのは邪魔をしないでおこうと思った。―――――が、なにやら雲行きが怪しいのは………エルヴィンを恨む、フロックだ。ナナに詰め寄る声を、俺は扉越しに聞いていた。
――――あいつの気持ちも分からなくはない。
だが―――――それをナナに向けるのは甚だおかしな話だ。………ナナが1人で行く、と言った以上、意志は尊重してやりたい……と思っていたが―――――………
「――――や、ぁっ……!!」
ナナが嫌がる声がした。
あいつは今体力も気力もない。
フロックが変な気を起こしたのだとしたら―――――……そう思って扉を開けると、案の定だ。ナナを組み敷いて覆いかぶさるフロックの姿。
―――――とてつもない苛立ちが、沸き起こった。
「――――おい……てめぇ何やってる……?」
俺が声をかけると、やばい、と言わんばかりの顔でフロックが振り向いた。すぐにパッとナナの身体を解放したところを見ると―――――衝動的なものか。
「――――ちっ………。」
ナナの方へ歩み寄ると、ナナは涙でぐちゃぐちゃの状態でだらん、と脱力したまま、過呼吸に陥っていた。
――――起き上がれないほどのようだった。
「――――あっ……、あの、俺……っ………。」
あからさまに動揺して後ずさるフロックを横目でちらりと牽制して、ナナを抱き起す。