第161章 劣情
「――――ナナ。大丈夫か。」
ナナはひたすら引きつる呼吸を繰り返しながら、苦しそうに胸を押さえて―――――、一瞬、俺に縋るような目を向けた。そのあまりに悲痛な様子から、フロックが焦ったように言った。
「――――い、医者…っ呼び、ます……っ……!」
「必要ない。」
「――――えっ………。」
「――――ガキは黙って見てろ。」
ナナの後頭部を押さえて、唇を塞ぐ。
ビクン、とナナが身体を震わせるが、構いもせずに舌を侵入させる。―――――過呼吸を止めるのに、別に舌を入れる必要もねぇんだが。
――――見せつけてやらねぇとな?
―――――このクソガキに、お前の入る余地なんてないと―――――……
これは、俺のものだと。
「――――ん……っ、ぁ、ふ……………。」
「――――ナナ……聞こえるか、苦しいな………?――――もう大丈夫だ。」
「―――――っ………、リ……ヴァ……さ………。」
ナナが俺に震える手を伸ばす。
―――――わからなくもない。
―――――弱りきったこいつは、支配欲を掻き立てる。
ぐちゃぐちゃにして――――……もっと泣かせて、鳴かせて、啼かせて――――……今度こそ俺だけの檻に、閉じ込めてしまいたいと思う。
顔を真っ赤にして俯きながらも、ナナから目を離せない様子のフロックに目をやって、視線を突き刺す。
「―――――行け。――――ナナに手を出すな。次は―――――、ない。」
「――――は、い……っ……。」
フロックがバタバタと去ったその足音を聞き届けてから、またナナの唇を塞ぐ。
もう呼吸は落ち着いていたなんてことに―――――気付かないふりをして。
弱々しく抵抗するナナを抱き締めて、その耳元で囁く。
「―――――もう、放さない。」
エルヴィンがいなくなった途端、縛るものが無くなったとでもいうように―――――……
俺の中のどうしようもない劣情が、また………息を吹き返した。