第161章 劣情
――――俺を拒否するために距離をとろうと伸ばされたナナさんの腕の細い手首を、掴んだ。
ナナさんはビクッと怯えた顔で俺を見上げた。
その目には涙がいっぱいに溜まっていて――――、いつもの強気で凛とした彼女からは想像もできないくらい弱った表情……眉を下げて――――目を開いて、体を震わせていた。
――――ゾクッと、した。
――――思いのままに出来るんじゃないかと。
――――あぁ、誰かが言ってたな……。命のやりとりをするような戦いの前後は、昂るんだって………――――エルヴィン団長がいるここで、ナナさんを――――……。
「………や、めて……フロックさ……、放し、て………。」
荒い呼吸で開かれた唇とその吐息が、俺を誘う。
ごくん、と生唾を飲んで――――……その細い身体を、床に押し倒した。
「――――や、ぁっ……!!」
――――両手首を床に押し付けると、ナナさんが顔を背けながら手首に力を込める。
――――びくともしない、か弱すぎて……また、ゾクっと背筋を撫でられたような感覚が襲う。
顔を大きく背けたその首筋は、滑らかで真っ白な肌………。吸い寄せられるように、唇を寄せた。
――――と、その時、身の毛もよだつような冷たい声がした。
「――――おい……てめぇ何やってる……?」
ビクッと体が硬直した。恐る恐る振り返ると、扉の所で腕を組んでいる―――――、兵長だ。