第161章 劣情
俺は、はぁはぁと息が上がるほどに強く訴えていた。
ナナさんは呆然とそれを聞いて――――……苦しそうに、俯いた。そして涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、小さな声で――――エルヴィン団長の代わりに謝っているのか、謝罪の言葉を口にした。
「………ごめ、んね………。ごめん、なさい……。」
「っ………別に俺は……!!あなたに謝って欲しいわけじゃ――――……!」
「ごめ、なさ……っ……、しか……言えな……っ……、ごめんなさい………、エルヴィンを、責めないで………。大事な、ひと、なの………。」
「――――知ってますよ!!だから、俺は――――エルヴィン団長を――――……っ……。」
ナナさんの様子がおかしい。
――――俺が理不尽な事を言っているのも、わかってる。
エルヴィン団長への恨み言を、この人にぶつけて何になる?この人は壁内で待っていただけなのに。そして――――愛する人を失って打ちひしがれてるのに……、責めて、何になる?
分かってる。
でも、いつものナナさんなら――――……叱ってくれると思った。
『それは団長として当たり前の判断だ。』って………
『心臓を捧げる覚悟なんて、とうにできているでしょう?』って。
――――俺の愚かな八つ当たりも、諭してくれるって――――………。
そう思った瞬間、ナナさんが崩れ落ちた。
肩で息をするように激しく揺らして、胸を押さえながら―――――……ひゅ、ひゅ……と、か細い音を鳴らす激しい呼吸を繰り返している。
床にぽた、ぽた、と染みを作るのは―――――止まらない涙だ。
「――――ナナさ……!」
駆け寄ろうとした俺を、ナナさんは牽制するように手で距離を作った。
「――――来、ないで………っ……ひ、とり……に、して……。」
その姿があまりに痛々しくて、でも――――……
今ならこの人を力づくで支配できそうで。
あの悪魔が愛した人を――――……
この手に落としてやったら………
俺の気は、少しは晴れるのか………?
そんな――――……異常な思考が、俺の中で芽生えた。