第161章 劣情
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揺れた扉から恐る恐る中を覗くと―――――さっき見た、女が…………エルヴィン団長の棺にしがみついて、泣いている。
―――――あれは………
「―――――ナナ、さん………。」
なんて悲痛な声で泣くんだよ……、喉がちぎれそうだ。腹が―――――裂けそうな、そんな………悲鳴のような声だった。
――――っ……だからっ……、だからエルヴィン団長を選ぶ、べきだったんだよ………!あの悪魔は地獄に引きずり降ろしても、ああやって寄り添ってくれる女神がいるんだから……っ……!!
あの人が泣かなくて済むなら、地獄にでもなんでも、呼び戻してやれば良かったんだ………!
俺は湧き上がる感情を抑えることができないまま、扉を開けてナナさんの方へ、歩を進めた。
「―――――!!」
ナナさんはハッとした顔で俺の方を振り返った。
その目は真っ赤で、いつもの彼女らしくない―――――乱れた髪と、青くやつれた顔。ひどい………とても、苦しそうだ。
――――死んで、しまうんじゃないかとすら、思うほど……。
「――――ナナさん………。」
「………っ………。」
少し怯えたような顔をするナナさんに向かって、俺は爆発した感情をぶつけた。
「――――俺!!!エルヴィン団長を……っ……生き返らせるように頼んだんです!!!――――っなのに……なのに、エレンとミカサが抵抗して……っ……!!――――リヴァイ兵長も兵長です……、なんで……っなんでアルミンを選んだ?!?!どう見たって、今後の人類の為になるのはエルヴィン団長だった……!!こんな地獄でも、兵を死なせようとも……っ……知らぬ顔で、突き進める人だ……!」
「――――………。」
「エルヴィン団長の特攻命令で……っ……、俺の同期の新兵は……っ……俺以外全員、石で全身をバラバラに砕かれて――――……死にました……!!―――――っ地獄、でしたよ……!!」